Categories: 法人税税務

留保と社外流失について

 こんにちは! 税理士のきよです。

今日はクライアント様と一緒に債権者集会に参加してきました。

 破産の申し立てをしているから1円も回収できないかなぁと思いつつも、わずかな期待も抱きつつ参加したのですが、やはり無理でした。

 どのくらい年商があったかわかりませんが、何千万円も社長貸付金があるようでは会社の資金が回りません。会社の経営者といえども人生いろいろあるから、やむを得ず会社から持ち出さざるを得ないこともあるかもしれませんが、やはり返済の計画が成り立つような範囲内でなければ。

 過去の経験から社長貸付金がいつまでも残っている会社はたいてい潰れます。銀行に融資を申し込んでも「うちが融資するより、社長が会社から借りているお金を会社に返済したら?」といわれるし、役員報酬で貸付金を削っても過大な役員報酬という経費が発生し、会社が赤字になると「赤字が多すぎるし、この利益にしては役員報酬高すぎない?」
 もっともな回答が返ってくるだけです。

 気の毒なのは社長が会社を私物化してしまっている会社の従業員、取引先などの関係者です。特に従業員の方。一生懸命に会社のために頑張ってきたのに…。経営者の皆さん、会社は社長だけのものではありませんからね。従業員の人生も背負っているという自覚を忘れないでくださいね。

 さて本題の「留保と社外流失」についての解説です。
 法人の決算説明会の講師を依頼されると、「留保と社外流失」がわからないという質問を受けることあるので説明したいと思います。

 各事業年度の法人税は会社の利益に対して課されます。企業利益は収益から費用を引いて求められます。この企業利益に課税されるのであれば簡単なのですが、課税の公平を図る等との観点から、この企業利益に調整が加えられ、その調整後の金額(課税所得)に税率をかけるという計算方法になります。

 会計上の収益を税法上は益金といい、会計上の費用を税務上は損金といいます。
 ほとんどが収益=益金、費用=損金の関係になりますが、税法の「別段の定め」の部分がイコール関係にならずそこでズレが生じることになります。そのズレた金額を別表で加算・減算することになります。

 ここまでの説明と、会計上の貸借対照表 = 別表五(一)「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」(税務上の貸借対照表)、会計上の損益計算書 = 別表四「所得の金額の計算に関する明細書」(税務上の損益計算書)とイメージしてみてください。

 例えば当社は3月決算法人だとします。
 期中の売上については預金に振り込みがあったときに売上を計上しています。
 前期分は決算が確定し、申告書も税務署に提出しました。ところが当期になって4月5日に振り込まれていた金額(30,000円)は前期の3月25日に販売した商品に係るものであることが判明しました。貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書等の決算書は株主総会で承認され確定するとその後に変更することはできません。じゃあこの売上をどうするか。別表で調整することになります。

 ①(本来の仕訳)  売掛金  30,000円 /  売上   30,000円
 ②(会計上の仕訳)           仕訳なし

 本来3月25日に①の仕訳をしておくべきでした。しかし、仕訳をしていない②の状態で決算書が作成されてしまいました。そこで

 ③(税務上の仕訳) 売掛金  30,000円 /  売上   30,000円


 の仕訳を別表四記入することになります。
決算書の損益計算書に含まれていない(帳簿外になっている)売上30,000円の収益計上漏れ分を別表四に「売上計上漏れ」として加算すると、正しい課税所得が計算されます。ここで売上の相手勘定科目「売掛金」に注目です。この売掛金も決算書の貸借対照表に含まれていない(帳簿外になっている)ですよね。この売掛金を別表五(一)に区分として「売掛金」右側にある増③欄30,000円・翌期期首残④欄30,000円と記入することになります。

 このように処理した後に翌期がどうなるか考えてみましょう。

 ①(本来の仕訳) 預金  30,000円  /  売掛金   30,000円
 ②(会計上の仕訳)預金  30,000円  /  売上    30,000円

 預金に振り込みがあった時点に売上を計上する方法を採っていれば②の仕訳処理されることになります。ところがこのままだとこの30,000円が前期と当期の両方で課税されることになります。そこで、

 ③(税務上の仕訳)売上  30,000円  /  売掛金   30,000円
と修正仕訳することにより①の正しい仕訳に訂正します。売上は収益のマイナスになっているので当期の別表四で「前期売上計上漏れ認容」30,000円で減算、相手勘定の売掛金も資産のマイナスになっていることから別表五(一)で減②欄で30,000円と記入します。別表五(一)は前期末として「売掛金」30,000円から繰り越されてきた金額から減②欄で30,000円減算し、翌期期首残④欄0円となり、この売上は前期と当期においてそれぞれの年度で正しく処理されたことになります。

 さらにもう一例。同じく3月決算法人税で前期に機械1,000円を購入し事業の用に供しました。前期における税法上の減価償却限度額300円に対し、前期の決算で400円の減価償却費を計上しました。当期においてこの機会を除却しました。とします。

前期 ①(本来の仕訳)  減価償却費 300円  /  機械   300円
   ②(会計上の仕訳) 減価償却費 400円  /  機械   400円
   ③(税務上の仕訳)  機械    100円  /  減価償却費 100円

 会計上は②に仕訳により損益計算書で本来課税されるべき金額より100円少ない金額が企業所得で計上されているので、③の仕訳により「減価償却過大計上100円」として別表四で加算することにより正しい課税所得にします。そして相手勘定である「機械」を別表五(一)で「機械」として増③欄と翌期首残④欄にそれぞれ100円と記入することになります。

 この別表五(一)機械100円は何を意味するのか。決算書の貸借対照表には1000円の機械から減価償却費300円を引いた機械700円が計上されています。しかし税務上は200円しか減価償却を認めていないから本来800円が計上されているべき金額です。つまり貸借対照表の機械700円の他に簿外分として100円あり、税務上の簿価は800円ですよということを意味します。

 この状態で当期を考えてみましょう。

当期 ①(本来の仕訳)  除却損  800円  /  機械   800円
   ②(会計上の仕訳) 除却損  700円  /  機械   700円

 本来800円の除却損が計上されるべきですが、会計上は前期に300円の減価償却していることから貸借対照表には700円しか残ってないので②の仕訳をせざるを得ないません。そこで、

   ③(税務上の仕訳) 除却損  100円  /  機械   100円  
 と修正し、別表四で「減価償却超過額認容(除却損認定損)」で100円減算、別表五(一)の①欄の期首残「機械」100円から減②欄で100円記入し翌期首残④欄も0円と記入することになります。

 この1000円の機械は会計上は前期減価償却費300円、当期除却損700円の合計1000円が費用として認識され、税務上は前期200円、当期800円の合計1000円が損金として認識され、決算書の年度の所得のズレが別表により調整され、2年間で1000円を費用(損金)として計上できたということになります。

 このように所得を調整する際に仕訳上収入あるいは費用の相手勘定に資産あるいは負債勘定が絡んでくるのが「留保」となります。

 これに対して「社外流失」は、税務上の仕訳で収益・費用の相手勘定に資産・負債勘定が絡んでこないものになります。具体的には、

 税務調査で飲食店の飲食費につき「会議費」と経理していた取引は実は社長の家族との食事会だったとした場合

  ①(本来の仕訳)  役員報酬  1000円  /  現金  1000円
  ②(会計上の仕訳) 会議費   1000円  /  現金  1000円
  ③(税務上の仕訳) 役員報酬  1000円  /  会議費 1000円

 となります。税務上の仕訳で役員報酬という費用1000円が生じますが、会議費1000円の費用がマイナスされることから所得自体はプラスマイナスゼロとなります。ところが役員報酬は定期同額給与等に該当しないから「役員報酬の損金不算入額」1000円として課税所得に加算されます。費用の内訳に訂正があっただけで簿外の資産・負債があるわけではありません。

 「留保」は、当期の所得のみならず翌期以降の所得にも影響を及ぼすことから「一時差異」
 「社外流失」は、当期の所得のみで完結し翌期以降の所得には影響を及ぼさないことから「永久差異」とも言われています。

 最後におさらい。
 ➀ 貸借対照表 = 別表五(一) ・ 損益計算書 = 別表四  というイメージ
 ② (本来の仕訳)
   (会計上の仕訳)
   (税務上の仕訳)  をメモして加算するのか減算するのか考え、その相手勘定に
   資産や負債の勘定科目が出てくるか否か 
と考えれば法人税申告書の肝でもある別
   表四と別表五(一)に対応できるのでは?

ではまた!!

 

きよ

 横浜市を中心とした地域密着型の税理士事務所です。  法人設立、資金繰り、節税対策をど、主に法人の税務会計や経営のサポートを応援させていただいてます。  相互信頼のもと、クライアントが気軽に相談することができ、事務所は率直に意見を言うことができる、お互いが共存共栄できることを望んでいらっしゃる方を大歓迎します。    

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